チェストという言葉には複数の意味があります。
- 胸 (英語:chest)
- 整理だんす (英語:chest)
- 蓋つきの箱 (英語:chest)
- 掛け声の“チェスト”
(鹿児島 薩摩 示現流など)
今回は、それぞれの意味について、
なるべくわかりやすく解説しようと思います。
皆様の参考になれば幸いです。
■胸の意味の場合のチェスト
“胸”の意味の場合、子供や男性の胸や、胸部そのものを指します。
バスケットボールのチェストパスの“チェスト”も、この意味から来ています。
胸から突き出すようなパスだからでしょうね。
チェストボイス(地声)の“チェスト”もそうですね。
胸に響くような声ということだと思います。
ちなみに、膨らみのある女性の胸(乳房を含む)は“バスト(bust)”です。
多分、胸の意味の場合、チェストよりもバストの方が、今の日本人には馴染みが深いかもしれませんね。
■整理だんすのチェスト
基本的には、服などの衣料品を入れるための整理だんすという位置づけですね。
木製のシックな感じのインテリアから、現代の化学素材で出来たものまで種類は様々です。
昔の日本の家具に“長持(ながもち)”がありますが、それも、衣服を入れるという意味ではチェストの一種と言えるでしょう。
■蓋つきの箱のチェスト
主に貴重品などをしまいこむための蓋のついた木製の箱のことですね。
この意味の場合は、RPGゲームなどに出てくる宝箱をイメージすると分りやすいと思います。
↓こんな感じですね
ちなみに、金属の枠などの装飾がついた豪華な感じの宝箱はcoffer (コッファー コッフェル)です。
チェストもコッファーも、基本的には貴重品を入れる箱です。
使用目的ではどちらも同じ。
コッファーは木箱というよりも、金属で作られた豪華で頑丈な宝箱で、その箱自体も価値が高いものです。
チェストは、あくまでも木箱ですね。
■掛け声の“チェスト”の意味
昔の薩摩(現代日本の鹿児島県)を発祥とする示現流剣術でよく聞かれた掛け声ですね。
「チェストーー!!」の意味は
- それいけ!
- やあー!
- やれー!
など。
つまりは、気合の入った掛け声です。
チェストの由来や語源については、剣で相手に斬りかかる時の示現流の心構えの一つ、
「知恵を捨てよ(無心になれ)」という言葉が掛け声として変化した
という説が有力だと、私は考えています。
「知恵を捨てよ」
↓
「知恵捨てよ」
↓
「ちえすてょ」
↓
「ちぇすと!」
↓
「チェスト!」
こんな感じの変化でしょうか。
他にも、
「チェスト(胸)を狙え」という意味から、「チェスト!」という掛け声が生まれた
などという説があります。
ですが、後者の説の場合、薩摩示現流が隆盛した時代背景を考えると、チェストという英語の言葉を使ったとはちょっと考えにくいと思います。
なぜなら、示現流を御流儀とする薩摩藩は、幕末に長州藩と同盟を結び、日本国を諸外国の侵略から守り切れていない幕府を倒し、新政府を築いて日本国を守ろうとしました。
「鎖国しようと言っておきながら、開国して日本に不利な通商条約とか結んでるじゃん!」
「武士による軍事政権の意味ないじゃん!」
「そんな幕府は要らん!」
てなワケで、幕府を倒したのです。
(もちろん、もっと複雑な事情も多々あるのですが、ここでは割愛します。)
そんな状況下で、英語のチェストという言葉を御流儀である示現流が容認するだろうか?
そう考えると、後者の説である、「チェスト(胸)を狙え」が掛け声の由来というには、ちょっと無理があるんじゃないかなと考えたのです。
というワケで、私は前者の
「知恵を捨てよ」という言葉がチェストに変化した
という説を推します。
この説でいくと、チェストという掛け声は、相手を威圧する声というよりもむしろ、
自分自身へ向けた気合を入れる言葉なんでしょうね。
ちなみに、示現流の流派の一つ、薬丸自顕流の斬撃時の掛け声はチェストではなく、
キエエーーー!!
といった、猿叫(猿の絶叫)に近い金切り声を発します。
気合と同時に声で相手を威圧するわけですね。
薬丸自顕流の斬撃の破壊力は、その猿叫の凄まじさに比例するようにかなりのものだったらしいです。
斬撃を防いだ刀ごと身体を両断されたり、胴体を輪切りにされたりしたそうです。
凄まじい威力だったんですね。
あと、武器が普通の日本刀ではなく、野太刀という大型の刀だったことも理由の一つとか。
薬丸自顕流の斬撃の威力がどこまで本当なのかは、私には分りません。
でも、日本刀は、剃刀(かみそり)の切れ味と鉈の重さを併せ持った世界でも珍しい刃物。
野太刀は、それに加えて大きく、鉈以上に重たい大型の刀剣。
そんな危険物を思いっきり振り下ろせば、物理的に考えて、人間の身体があっさりと両断されてもまったくおかしくないですね。
では、今回はこの辺で。