TOB(ティーオービー)をわかりやすく言うと、
株の公開買い付け
という意味である。
正しくは「株式公開買付け」と言い、とある企業または個人が、他の企業の株式の大部分または全部を買い取ることで、その企業の「経営権を取得する手続き」を指す。
近年では、東芝への友好的TOB※が有名。
(※2023年8月8日~9月21日 日本産業パートナーズによるTOBで完全子会社化)
会社法上、企業の株式の50.1%超を保有することで、株主総会の普通決議を単独で可決することができる。
また、企業の株式を3分の1超(33.4%以上)保有することで、対象企業の株主総会の特別決議拒否権を手にすることができる。
そのため、TOBを行う場合は、51%以上の取得か、34%以上の保有を目指して行われる。
ちなみに、TOBは、英語の「Take-over Bid」の略で、主にイギリスの英国圏で使用される。
一方で、米国では、「tender offer」という言い方が一般的であり、特に米国投資銀行では「tender offer」「public tender offer」という言い回しの方がTOBよりも通じやすい。
・TOBの基本的な方法
TOBは、通常の株式取引とは違い、証券取引所を通さずに、株の保有者から直接株式を買い付ける方法で行われる。
大まかな手順は以下のとおり。
- 公開買付者(買収企業)が、対象企業の株式を買い付けることを決定し、買い付け期間、買い付け価格、買い付け予定株数などを定めた公開買付届出書を金融庁に提出する。
- 金融庁が公開買付届出書の審査を行い、問題がなければ公開買付の開始の許可を出す。
- 公開買付者は、買収対象企業に対してTOBの実施を通知する。
- 公開買付者は、TOBの公告をマスメディアを使って公表する。
公告には、TOBの期間、価格、株式数などの条件が記載される。 - 買収対象企業の株主は、TOBに応募するか否かを決定する。
- 対象企業がOKした場合、公開買付者は、対象企業の株式を買い付け期間内に、応募してきた株主から買い付け価格で買い取る。
- TOB成立。
ちなみに、対象銘柄を保有している株主は、通常の取引市場ではなく、公告に記載している証券会社などに申し込み、取引所外で株式を売却することになる。
なお、上場企業の株をTOBで大量に取得した場合、株式市場から対象企業の株が大幅に減ってしまう(または完全に無くなる)ことになるため、上場廃止となるケースも多々ある。
TOBに応じずに、株式を保有したまま株主として存続する企業(または人)もいるが、TOBの結果、買収対象企業の株式が上場廃止となる場合には、その株主は上場株式を保有することができなくなるため、渋々売却せざるを得ないのが現状である。
・友好的TOBと敵対的TOB
TOBには、大きく分けて「友好的TOB」と「敵対的TOB」の2種類がある。
友好的TOB:対象企業の経営陣が賛同しているTOB
敵対的TOB:対象企業の経営陣が反対しているTOB
友好的TOBは、対象企業の経営陣の同意を得て実施されるTOBである。
対象企業の経営陣が賛同していることから、TOBの成立が比較的容易であり、対象企業の経営権をスムーズに取得することができる。
一方で、敵対的TOBは、対象企業の経営陣の反対を押し切って実施されるTOBであり、いわゆる「乗っ取り」である。
対象企業の経営陣が反対しているため、TOBの成立には株主総会の承認が必要となる。
また、対象企業の経営陣がTOBの妨害行為を行った場合、対象企業の経営陣の責任を追及する訴訟が起こされることもある。
しかしながら、TOBを仕掛ける側の買付金額が非常に高額※であった場合、対象企業が敵対的TOBを受け入れる場合もある。
(※経営権を渡しても良いくらいの膨大な金額(兆円規模)であり、社員の待遇が保障されている場合など。)
・TOBによる自社株買いと経営権の強化
TOBの基本的な目的は主に「経営権の取得」であるが、それ以外の別の目的で行われることもある。
それは、「自社株買い」である。
自社株買いとは、ある企業が、自社の株式を買い戻すことであり、その手段としてTOBを行うことがある。
この場合のTOBは、対象企業自らが公開買付け側となるため、通常のTOBとは違い、通常通りに証券取引所を介して直接買付けが行われる。
自社株買いは、企業の財務状況を改善したり、株主還元を図ったりする目的で実施される。
また、自社株を買い戻すことで、株の保有主を限定し、経営権を強化することも可能である。
(自社株を買い取ってしまえば、株主総会から反対派などの反乱分子を追い出せる。)
・TOBの法規制
日本では、金融商品取引法において、TOBに関する規制が定められている。
主な規制は、以下の通り。
- 買収対象企業の株式を3分の1超で取得する場合は、TOBを実施しなければならない。
- TOBの公告は、新聞やインターネットなどで公表しなければならない。
- TOBの期間は、原則として10営業日以上とする。
- TOBの価格は、公正な価格でなければならない。
つまり、秘密裏にTOBを行うことは禁止されており、「いつの間にか乗っ取られていた」という事態にならないように法規制されているワケである。
・TOBのメリットとデメリット
◆メリット
- 短期間で大量の株式を取得できる。
- 対象企業の経営権を取得できる。
- 株価を高騰させることができる。
◆デメリット
- 対象企業の経営陣の反対を招く可能性がある。
- 敵対的TOBの場合、訴訟に発展する可能性がある。
- 買収価格が高騰する可能性がある。
TOBは、企業買収や自社株買いなどの際に用いられる有効な手法であるが、メリットとデメリットを十分に理解した上で実施することが重要であり、特に敵対的買収は経済に少なからず影響を与えるため、慎重に行わなければならない。
・敵対的TOBを防ぐ方法(防衛策)
TOBによる敵対的買収を防ぐために、以下のような方法がとられることがある。
◆新株発行
株を新たに発行することで株を増やし、買収側の株式保有割合を相対的に下げる方法。
いわゆる「ポイズンピル」(毒薬条項)と呼ばれる方法である。
これによって、買収側は更に株を取得しなくてはならなくなり、買収コストが上がってしまう。
もし、買収側が用意していた資金が底をついた場合「弾切れ」となり、敵対的買収は失敗に終わる。
ポイズンピルは有効な防衛手段と言えるが、新たな株発行によって市場内の発行済株式数が増加するため、市場価値が下がることになり、結果として株価が下落する可能性が大きい。
また、株主に新株発行を反対される可能性がある。
(自分の持ち株が増えるわけではなく、不平等であるため。)
◆第三者による買収
敵対的TOBを仕掛けられた買収対象企業が、別の友好的企業に自らの株を大量に買い取ってもらう方法。
いわゆる「ホワイトナイト」(白馬の騎士)。
敵に自社の経営権を奪われるくらいなら、友好的な企業に自社株を買い取ってもらって、敵に経営権が渡らないようにする方法である。
この方法の強みは、敵対的TOBが行われることが発覚した後でも実施できるところにある。
買い取ってもらった株数によっては、今後、ホワイトナイトの友好的企業が経営に口出しできるようになり、結果的に自社が経営方針の転換を迫られることになる可能性がある。
(まあ、それを見越して行うのだが…。)
◆逆買収
買収対象企業が、敵対的TOBをしてきた企業に対し、逆に相手側にTOBを仕掛ける方法。
欧米でいう「パックマンディフェンス」※。
(※「逆にモンスターを食ってしまう」部分が、ゲームのパックマンに似ていることから名づけられた防衛策。)
敵の企業の経済力があまり高くない場合、逆にTOBを仕掛けて乗っ取ろうとすることで、敵対的買収に資金をつぎ込む余裕をなくさせたり、敵を株を防御させる方針に回らせて、こちら側に敵対的買収をさせなくするのが目的。
友好的TOBを好む日本では、あまり見られない手法である。
◆焦土作戦
敵対的TOBを仕掛けられた際に、保有する収益性が高い事業や価値のある資産を売却して企業の価値を引き下げ、敵対的買収者の買収意欲(目的)を削ぐ方法。
王冠から価値のある宝石を外して王冠の価値を下げることに似ているため、「クラウンジュエル」と呼ばれる。
敵対的買収側にとっては、買収する旨味が無くなるので、結果として買収を取りやめることになる。
ちなみに、この手法を大規模に行い、企業価値をゼロに近いレベルまで下げることを、日本では「焦土作戦」という。
2005年に起きた、当時の堀江貴文氏率いるライブドア・パートナーズによる敵対的TOB、いわゆる「ニッポン放送買収騒動」において、ニッポン放送側が「焦土作戦を行う」と言ったことが有名。
(実際には行われていない。)
ニッポン放送が狙われた理由は、資本金的に企業規模が小さいニッポン放送が、はるかに上を行くフジテレビの筆頭株主だったという「資金のねじれ現象」にある。
(フジサンケイグループにおいて、株式的にフジテレビがニッポン放送の子会社になっていた。)
つまり、資金力の小さいニッポン放送を買収してしまえば、ニッポン放送が持っていたフジテレビの株を自動的に手に入れることになり、それを足掛かりにフジテレビの経営に加わることができることになるからであった。
敵対的TOBを防ぐために、フジテレビ側が友好的TOBを決行し、株の奪い合いが発生した。
結果として、フジテレビ側がニッポン放送の株を友好的TOBで買い集めたため、ライブドア側とフジテレビ側が所有するニッポン放送の株数合計比率が70%を超えてしまい、ニッポン放送が1年後に上場廃止となる事態になってしまった。
これによって、ライブドア側は旨味が無くなったため、敵対的TOBを断念した。
最終的には、ライブドア側が持つニッポン放送株をすべてフジテレビ側に売却し、和解するに至った。
(ニッポン放送は、現在はフジ・メディア・ホールディングスの完全子会社となっている。)
◆参考サイト様◆
関連項目
なし