廃プラスチック類を化学的に処理して原料レベルに戻し、
新しいプラスチック製品として再生すること
を意味する言葉。
日本における、3つのリサイクルの方法「マテリアルリサイクル」「ケミカルリサイクル」「サーマルリサイクル」のうちのひとつである。
化学的な処理を行うことによって、複雑な形状や混ざったプラスチックもリサイクルできる点が優れており、循環型経済(サーキュラーエコノミー)の実現と、SDGsに貢献できる技術として期待されている。
■ ケミカルリサイクルと従来のリサイクルの違い
従来のリサイクルとケミカルリサイクルは、どちらも廃棄物を資源として再利用する技術ですが、仕組み、利点、課題などが大きく異なる。
それぞれの違いの詳細は以下のとおり。
1. 仕組みの違い
従来のリサイクルは、マテリアルリサイクルとも呼ばれ、廃棄物を洗浄、選別、破砕などの物理的な処理によって、元と同じ素材に戻す技術である。
例えば、ペットボトルを洗浄して再生ペットボトル原料にしたり、新聞古紙を再生紙原料にしたりするなどが一般的である。
一方、ケミカルリサイクルは、廃プラスチックを化学的に分解して、原料レベル(モノマーやオリゴマー)まで戻し、新たなプラスチック製品として再生する技術である。
高温・高圧などの処理を用いるため、従来のリサイクルよりも複雑な技術が必要となる。
2. 処理対象の違い
従来のリサイクルは、素材の種類ごとに処理方法が異なり、同じ種類の素材のみをまとめて処理する必要がある。
また、汚れや異物が混入していると、リサイクルできない場合がある。
一方、ケミカルリサイクルは、様々な種類のプラスチックを混合して処理することが可能で、汚れや異物が混入していてもリサイクル可能である。
3. 再生品の種類の違い
従来のリサイクルでは、再生された素材は元の素材と同じ性質を持つものになる。
例えば、ペットボトルを再生ペットボトル原料にすると、再びペットボトルとして利用できる。
一方、ケミカルリサイクルでは、原料レベルまで分解するため、元の素材とは異なる性質のプラスチック製品を作ることも可能である。
例えば、ペットボトルを分解して得られたモノマーを、ポリエステル繊維として利用することもできる。
◆ケミカルリサイクルと従来のリサイクルの違い まとめ
違いをまとめて表にすると、以下のようになる。
項目 | 従来のリサイクル | ケミカルリサイクル |
---|---|---|
対象素材 | 同じ種類のプラスチック | ほとんどのプラスチック |
再生品の種類 | 同じ種類の素材 | 異なる種類の素材も可能 |
メリット | 比較的安価、技術が確立している | 高品質な再生素材の生産が可能、複雑なプラスチックもリサイクル可能 |
デメリット | 種類ごとに分別が必要、品質が劣化する可能性がある | コストが高い、エネルギー消費量が多い、技術課題がある |
※ 上記はあくまでも一般的な比較であり、具体的な技術や状況によって異なる場合がある。
■ ケミカルリサイクルが注目される理由
近年、プラスチックごみ問題や資源枯渇問題が深刻化しており、持続可能な社会を実現するために、廃棄物のリサイクル技術がますます重要になっている。
そんな中、注目されているのがケミカルリサイクルである。
従来のリサイクルと比べて、以下の点が注目されている。
1. 高品質な再生素材の生産が可能
ケミカルリサイクルでは、廃プラスチックを分子レベルまで分解するため、高純度な原料やモノマーを回収できる。
これにより、食品容器、繊維、医薬品など、高品質な製品の生産が可能になる。
従来のマテリアルリサイクルでは、再生品の品質が劣化する場合がありましたが、ケミカルリサイクルであれば、劣化を抑制することができる。
2. 複雑なプラスチックもリサイクル可能
ケミカルリサイクルは、プラスチックの種類に関わらず、複雑な形状や混ざったプラスチックもリサイクルできる。
従来のマテリアルリサイクルでは、同じ種類のプラスチックしかリサイクルできず、分別が必要であった。
一方、ケミカルリサイクルであれば、分別の手間を省くことができ、リサイクル率の向上に貢献できる。
3. 石油資源の節約
プラスチックは石油由来の資源で作られている。
ケミカルリサイクルは、廃プラスチックから原料を回収することで、石油資源の節約に貢献できる。
近年、石油資源の枯渇が懸念されており、限られた資源を有効活用することが重要になっている。
4. 廃棄物削減
ケミカルリサイクルは、廃プラスチックを新たな資源として生まれ変わらせる技術である。
焼却や埋め立て処分による環境負荷を低減し、廃棄物削減に貢献できる。
近年、プラスチックごみによる海洋汚染などの問題が深刻化しており、廃棄物削減は喫緊の課題となっている。
5. 循環型経済の実現への貢献
ケミカルリサイクルは、資源の持続可能な利用を可能にする技術である。
廃棄物を資源として循環させることで、従来の「使い捨て」の経済モデルから、「循環型」の経済モデルへと移行することができる。
循環型経済は、環境負荷を低減しながら、経済成長を実現する持続可能な経済システムである。
6. その他の注目点
- 化学工業原料への利用:ケミカルリサイクルで得られた原料やモノマーは、プラスチック製品だけでなく、化学工業原料としても利用できる。
- バイオプラスチックへの利用:ケミカルリサイクルで得られた原料を使って、バイオプラスチックを生産することもできる。
- エネルギー回収:ケミカルリサイクルプロセスで発生するガスを燃料として利用することができる。
以上のように、ケミカルリサイクルは、持続可能な社会に貢献できる様々な利点と要素を持ったリサイクル法である。
近年、ケミカルリサイクルの技術開発が進み、コスト低減や環境負荷低減に向けた取り組みも行われている。
今後も研究開発が進み、課題克服に向けた取り組みが進むことで、ケミカルリサイクルはますます注目される技術となることが期待されている。
■ ケミカルリサイクルの仕組み
ミカルリサイクルは、廃プラスチックを高温・高圧などの処理によって、化学的に分解し、原料やモノマーレベルまで戻して、新たなプラスチック製品として再生する技術である。
主な仕組みは以下のとおり。
- 前処理
- ケミカルリサイクルプロセス
- 後処理
1. 前処理
ケミカルリサイクルでは、前段階の処理として、廃プラスチックを洗浄、選別、破砕する。
- 洗浄:汚れや異物を除去し、リサイクルしやすい状態にする。
- 選別:プラスチックの種類ごとに分別する。
- 破砕:小さく砕くことで、後の処理を容易にする。
2. ケミカルリサイクルプロセス
ケミカルリサイクルで最も重要なプロセスであり、これ自体がケミカルリサイクルと言うこともできる。
ケミカルリサイクルには、素材ごとに大きく分けて3つの種類がある。
- 熱分解法
- ガス化法
- 液化法
2.1 熱分解法
高温(400~600℃)でプラスチックを分解し、単一分子レベルの原料(エチレン、プロピレン、ベンゼンなど)まで分解する。
- 適用素材:PET、PS、PEなど
- プラスチックを高温(400~600℃)に加熱し、分解する。
- 分解生成物は、ガス、油、炭素などである。
- ガスは、燃料や化学製品の原料として利用できる。
- 油は、潤滑油や燃料として利用できる。
- 炭素は、燃料や添加剤として利用できる。
利点:比較的シンプルな技術、高純度の原料を回収可能
課題:高温での処理によるエネルギー消費
2.2 ガス化法
高温・高圧(400~800℃、0.1~1MPa)でプラスチックをガス化し、合成ガス(水素、一酸化炭素、二酸化炭素など)に変換する。
合成ガスは、燃料や化学品原料として利用できる。
- 適用素材:様々なプラスチック
- ガス化生成物は、合成ガスである。
- 合成ガスは、燃料や化学製品の原料として利用できる。
利点:幅広いプラスチックを処理可能、エネルギー回収が可能
課題:高温・高圧での処理による設備コスト、合成ガスの利用方法の課題
2.3 液化法
溶媒(メタノール、水など)を使用してプラスチックを溶解し、オリゴマーやモノマーまで分解する。
- 適用素材:PET、PS、PPなど
- プラスチックを溶媒に溶解し、オリゴマーやモノマーにする。
- 使用される溶媒は、メタノール、エタノール、水などである。
- オリゴマーは、重合して再びプラスチックにすることができる。
- モノマーは、新たなプラスチック製品の原料として利用できる。
利点:比較的低温での処理が可能、高品質な再生素材を回収可能
課題:溶媒の回収・処理が必要→後処理で対応
3. 後処理
ケミカルリサイクルプロセスで得られたモノマーやオリゴマーを精製し、品質検査を行いる。
- 精製: 不純物を取り除き、高純度の原料にする。
- 品質検査: モノマーやオリゴマーの純度、分子量などを測定し、品質基準を満たしていることを確認する。
■ ケミカルリサイクル導入のメリット
ケミカルリサイクルの導入には、以下の6つの大きなメリットがある。
1.高品質な再生素材の生産が可能
ケミカルリサイクルでは、廃プラスチックを分子レベルまで分解するため、従来のリサイクルで課題となる品質劣化がなく、食品容器、繊維、医薬品など、高品質な製品の生産に利用できる。
例えば、ペットボトルをケミカルリサイクルで再生すれば、食品と直接触れるトレーやフィルムなど、より高付加価値な製品を作ることができる。
2. 複雑なプラスチックもリサイクル可能
混ざったプラスチックや難燃性プラスチックなど、従来のリサイクルでは困難だったプラスチックも、ケミカルリサイクルではリサイクルできる。
これにより、廃棄物全体の排出量削減に大きく貢献できる。
例えば、これまでリサイクルできなかったプラスチック包装材や家電製品なども、ケミカルリサイクルによって資源として蘇らせることができる。
3. 石油資源の節約
プラスチックは石油由来の資源で作られていますが、ケミカルリサイクルでは廃プラスチックから原料を回収できるため、石油資源の節約につながります。
有限な資源である石油への依存度を低減し、持続可能な社会の実現に貢献できる。
石油の採掘に伴う環境負荷を減らし、将来的には石油資源枯渇のリスクを低減することも期待できる。
4. 廃棄物削減
従来のマテリアルリサイクルではリサイクルできないプラスチックは、焼却や埋め立て処分されることが多く、環境負荷となる。
ケミカルリサイクルでは、こうした廃プラスチックもリサイクルできるため、廃棄物削減に効果を発揮できる。
焼却による温室効果ガスの排出抑制や、埋め立て処分に伴う土壌汚染のリスク低減にも貢献できる。
5. 循環型経済の実現
ケミカルリサイクルは、廃棄物を資源として有効活用する技術であり、循環型経済の実現に不可欠な要素である。
資源の採掘から製造、使用、廃棄までのライフサイクル全体を考慮し、資源の持続可能な利用を目指する。
有限な資源を効率的に活用し、地球環境保全にも貢献できる。
6. その他のメリット
- 廃棄物処理コストの削減
- 新たなビジネスチャンスの創出
- エネルギー自給率の向上
- 地域経済の活性化
などがある。
■ ケミカルリサイクル導入のデメリットや課題
ケミカルリサイクルには、主に以下のようなデメリットや課題がある。
1. コスト
ケミカルリサイクルは、従来のマテリアルリサイクルと比べてコストが高額なのが最大のデメリットである。
高温・高圧での処理や、溶媒の使用などが必要なため、設備投資や運転コストが大きくかかってしまう。
具体的なコストは以下の通りである。
- 設備投資コスト: ケミカルリサイクルプラントの建設には、数十億円から数百億円規模の投資が必要となる。
- 運転コスト: 原料となる廃プラスチックの収集・運搬、処理に伴うエネルギー消費、溶媒の回収・処理など、運転コストが大きくかかる。
2. エネルギー消費
ケミカルリサイクルは、高温・高圧での処理や溶媒の使用など、エネルギーを大量に消費するプロセスがある。
- 高温・高圧処理: プラスチックを分解・重合する過程で、高熱と高圧が必要となる。
- 溶媒の使用: 一部のケミカルリサイクル法では、溶媒を使用してプラスチックを溶解する工程がある。
- 環境負荷: エネルギー消費に伴う温室効果ガスの排出や、化石燃料の使用による環境負荷が懸念される。
3. 技術課題
ケミカルリサイクル技術は開発途上にあり、安定稼働に向けた技術課題がいくつかある。
具体的には、以下の点が課題となる。
- 処理条件の最適化: プラスチックの種類や状態によって最適な処理条件が異なるため、安定した品質の再生素材を得るための処理条件の最適化が課題である。
- 品質: 再生素材の品質が安定せず、高品質な製品への利用が難しい場合がある。
- 環境負荷: 溶媒の使用による環境汚染や、副産物の処理の問題が課題となる。
- 溶媒の開発: 環境負荷が少なく、効率的にプラスチックを分解できる溶媒の開発が課題である。
- 副産物の処理: ケミカルリサイクルプロセスで発生する副産物を安全かつ効率的に処理する技術の開発が課題である。
4. 環境負荷
ケミカルリサイクルは、高温・高圧での処理や、溶媒の使用などが必要となるため、環境負荷が懸念される。
具体的には、以下の点が環境負荷の要因となる。
- 大気汚染: 高温処理によって発生するガスや、溶媒の揮発によって生まれた副産物が、大気汚染に影響をおよぼず可能性がある。
- 水質汚染: 処理過程で発生する排水や、溶媒の漏洩によって水質汚染が発生する可能性がある。
- マイクロプラスチック: ケミカルリサイクル処理過程で発生するマイクロプラスチックが、環境中に流出する可能性がある。
5. 社会的な課題
ケミカルリサイクルの普及には、以下の社会的な課題がある。
- 廃プラスチックの収集: ケミカルリサイクルを行うためには、安定的な供給源となる廃プラスチックを収集する必要がある。
- 消費者の理解: ケミカルリサイクルに対する消費者の理解や認知度が低いため、再生素材を使った製品への需要が十分にありません。
- 制度整備: ケミカルリサイクル技術や再生素材の利用に関する制度や規格の十分な整備が必要。
■ ケミカルリサイクル まとめ
◆概要
- 廃プラスチックを高温・高圧などで分解し、原料レベルまで戻して新たなプラスチック製品を再生する技術
- 従来のリサイクルと比べて、高品質な再生素材の生産や複雑なプラスチックのリサイクルが可能
◆種類
- 熱分解法:高温でプラスチックを分解
- ガス化法:高温・高圧でプラスチックをガス化
- 液化法:溶媒を使ってプラスチックを溶解
◆仕組み
- 前処理:洗浄、選別、破砕
- ケミカルリサイクルプロセス:上記の種類ごとに異なる処理
- 後処理:モノマーやオリゴマーの精製、品質検査
◆メリット
- 高品質な再生素材の生産
- 複雑なプラスチックのリサイクル
- 石油資源の節約
- 廃棄物削減
- 循環型経済の実現
◆デメリット
- コスト
- エネルギー消費
- 技術課題
- 環境負荷
◆課題
- コスト低減
- エネルギー消費削減
- 技術課題克服
- 環境負荷低減
◆ケミカルリサイクルと従来のリサイクルの違い
- 対象素材:ケミカルリサイクルは複雑なプラスチックも可能
- 再生品の種類:ケミカルリサイクルは高品質
- メリット:ケミカルリサイクルは高品質、複雑なプラスチックも可能
- デメリット:ケミカルリサイクルはコスト、エネルギー消費、技術課題
◆ケミカルリサイクルが注目される理由
- プラスチックごみ問題の深刻化
- 石油資源の枯渇
- 循環型経済への移行
◆導入のメリット
- 高品質な再生素材の生産
- 複雑なプラスチックのリサイクル
- 石油資源の節約
- 廃棄物削減
- 循環型経済の実現
◆導入のデメリット・課題
- コスト
- エネルギー消費
- 技術課題
- 環境負荷
◆今後の展望
- 課題克服に向けた取り組み
- 今後ますます注目される技術
ケミカルリサイクルは、プラスチックごみ問題解決、石油資源への依存度低下、循環型経済の実現に貢献できる技術である。
課題克服に向けた取り組みが進むとともに、今後ますます注目される技術となると言えるだろう。
■関連項目
マテリアルリサイクル
サーマルリサイクル
■参考サイト様
経済産業省 資源エネルギー庁
一般社団法人プラスチック循環推進協議会
三菱ケミカル株式会社