ベーシックインカム(英:basic income )をわかりやすく言うと、
一定の金額を定期的に給付する
社会保障制度の一種
のこと。
毎月、または毎年、一定の金額を預金口座に支給し、受給対象者がその金額を受け取ることで、基本的な生活費を賄うことができるようにする制度である。
ベーシックインカムの主な目的は、国民の経済的・社会的な不平等の緩和である。
給付の対象は、その国の国民または地域の住民であり、年齢や性別は問わない。
一方で、その国の国籍を持たない外国人は、住民であっても原則対象外とされる可能性が高い。
・ベーシックインカムのメリット
ベーシックインカムのメリットは、失業者や低所得者、高齢者、子育て世帯など、経済的に困窮している人々にとって、生活の安定や社会的参加の促進などのメリットがある。
例えば、最低限の生活を保障できる金額を給付すれば、国民は過剰な労働から解放され、企業側も雇用調整を簡単に行うことができるようになる。
その結果、雇用の流動性が向上し、富の格差は解消し、社会不安はなくなり、新産業創出などの効果があるという意見がある。
また、精神面への影響もあり、経済的不安が多少なりとも解消されるため、積極的に外に出て消費活動を行うようにもなると言われている。
家賃が低い地方への移住が進み、地方の活性化に繋がる。
◆地方の活性化と少子化対策
日本においては、ベーシックインカムは、間接的に地方の活性化と少子化対策にも繋がると言われている。
例えば、月に7万円の給付がある場合、結婚すれば夫婦で14万円になる。
その状態で、家賃の安い地方で、夫婦で一緒に住めば、生活費を安く抑えられる。
子供を産めば、子供の分も給付金が入るので、産めば生むほど給付額の合計金額が増えていくことになる。
例えば、夫婦+子供3人の場合、給付金額が一人あたり7万円とすると、7万×5で35万円が無条件で毎月家計に入ることになる。
子供の給付額が半分の3万5千円だとしても、毎月24万5千円が無条件で家計に入ることになるので、家族で最低限の生活をするには十分な金額となる。
◆雇用の流動化とブラック企業の撲滅
ベーシックインカムによって必要最低限の生活が保障された状態なら、正規雇用にこだわる必要はなくなり、非正規雇用のアルバイトで月に12、3万程稼げば、普通に暮らしていける状態になる。
正規雇用は難しい状態でも、アルバイトなら求人は多いので、失業者は相対的に減ることになる。
万が一失業しても、ベーシックインカムがあるので、飢え死にするようなことは無い。
企業側も、正規雇用にこだわる必要がなくなり、必要な時に必要な人材を一定期間雇えば良くなるようになるため、雇用の流動化が可能になる。
更に、ブラック企業で低賃金かつ長時間労働を強いられている社員は、ベーシックインカムによる生活の援助があるため、簡単に辞職することができる。
これによって、ブラック企業で働く人材が減り続け、最終的には経営できなくなり、ブラック企業が倒産する。
一方で、人材はホワイト企業に集まることになる。
これが繰り返されることによって、労働そのものの正常化が図られるようになり、健全な経済社会へと変わっていく足がかりになる。
・ベーシックインカムのデメリット
ベーシックインカムのデメリットとしては、いかのようなものが挙げられる。
- 給付額によっては、働かなくなる。
- 受給対象者が国民全員の場合、経済格差は無くならない。
- 給付する代わりに税金が更に高くなる。
- 財源確保のために、他の社会保障制度を廃止しなければならない可能性が大いにある。
など。
・ベーシックインカム実現への課題
ベーシックインカム導入に関してはいくつか課題があるとされ、その中でも最大の課題は財源の確保である。
財源の確保としては、大きく分けると「増税」と「既存の制度の予算の見直し」の2つになる。
経済評論家の山崎元(やまざき はじめ)氏の試算によれば、年金・生活保護・雇用保険・児童手当や各種控除をベーシックインカムに置き換えることで、1円も増税することなく日本国民全員に毎月に4万6000円のベーシックインカムを支給することが可能であるとしている。
また、ベーシックインカムの第一人者として名高い経済学者の小沢修司(おざわ しゅうじ)氏によると、月額5万円程度のベーシックインカム支給ならば、増税せずに現行の税制のままで可能と試算している。
つまり、給付の金額が5万円程度なら、財源的には実施可能ということである。
そうなった場合、残る課題は、生活保護や年金などの恩恵を受けている人たちの賛成を得られるかどうかにかかってくる。
いままで、月に20万円ほど年金でもらっていた人が、月に5万円に減ってしまうのであるのなら、さすがに賛成は得られない。
なので、年金に関しては、5万円分減らしてもらい、減った5万円分を別枠としてベーシックインカムでもらうことで、結果的に合計給付金額が減らないような工夫が必要になってくる。
・海外での導入事例
◆スイス
スイスでは、ベーシックインカムを導入するかどうかの国民投票が、2016年6月5日に行われたが、反対多数で否決された。
内訳は、賛成23.1%、反対76.9%。
国民の投票率は、半分にも満たない46.3%だった。
反対が多数を占めたのは、支給額が月額2500スイスフラン(約28万円)※と、あまりにも高額だったためと言われている。
(※成人は月額2,500スイスフラン(約28万円)、未成年者は月額625スイスフラン(約7万円))
◆イタリア
イタリアでは、2019年からベーシックインカムが試験的に導入され、現在進行中である。
◆オランダ
オランダでは、都市ユトレヒトで2016年1月から試験的に導入され、現在進行中である。
具体的には、ベーシックインカム適用グループと現行の福祉法適用グループに分けて比較することで、制度の効果が検証されている。
◆ドイツ
ドイツでは、民間企業がクラウドファンディングを用いて集めた資金で、小規模なベーシックインカムを実施した。
支給する人数は85人と小規模だったが、月額1000ドル(約11万6300円)が1年間にわたって支給された。
一方で、国の政策としては、ベーシックインカムは国会で議論されてはいるが、実施には至っていない。
◆フィンランド
フィンランドでは、ヨーロッパ初の試みとして2017年から2018年の2年間、ベーシックインカムの導入実験が実施された。
具体的には、無作為に選ばれた失業中の2000人に対し、ひと月あたり失業保険とほぼ同額の560ユーロ(約7万円)を支給し、雇用状態や健康状態にどのような変化が起こるか観察した。
最終的な結果として、健康・ストレス面では問題が明らかに少なくなったものの、就業復帰の意欲が増すことはなかった。
そのため、フィンランド政府はこの試験運用を延長せず、失業給付を受けている人々が就業復帰を拒んだ場合には、更に厳しい制裁を課すというアプローチに切り替えた。
◆カナダ
カナダでは、2017年から3年間の予定で、オンタリオ州で実験的に導入された。
オンタリオ州の約4000人が、無条件で毎月お金を受け取るというものだった。
しかしながら、政策コストがあまりにも増大し過ぎたため、1年で中止となった。
当時の子ども・コミュニティー・ソーシャルサービス大臣、リサ・マクラウド氏は、
「導入実験は費用がかかり過ぎて、オンタリオ州の家庭に対する施策になっていない」
と、マスコミの取材に対して理由を明かした。
関連項目
なし